オタクは世界を救えない

『Summer Pockets』シナリオの気になるところとか雑な部分の話

Summer Pockets 初回限定版

 Keyの復活とまで謳われるほどの高評価を得た『Summer Pockets』。かくいう俺も普通に面白かったし複数にわたって記事を書くぐらいにはサマポケは良い作品だと思っている。なによりこれがKeyから出たってのが嬉しいわけですね。
 ただ、だからといってなんでもかんでも持ち上げるのも少し違うなというわけで、今回はサマポケのシナリオ上で矛盾点とまでは言わないまでも、少し気になった部分や、ここ雑じゃない? ってとこをいくつか挙げてみたいと思う。俺の読み込みが浅く考察によって解明できそうな部分があるのはご容赦いただきたい。

気になったところを挙げてくよ

・七影蝶について

 これ。具体的に何が気になったかというと、そもそも七影蝶の「人の記憶や強い未練を閉じ込めた存在」という設定がそんなに活用されてなくない? ということ。
 蒼ルートなんかでは七影蝶がメインの話なので結構触れられていたが、正直ALKAやPocketsでは演出のためにちょくちょく出てくる程度の存在でしかなかったように思う。このゲームのファンタジー設定というかループ設定の根幹を成すのは成瀬一族の未来視もとい過去を繰り返す能力であり、それと七影蝶の間になにかの関連性があるのか?と最初は思っていたのだけど、シナリオを最後までやってもそれは見えてこなかった。瞳さんが自身を蝶に変えてうみちゃんを導いたというのはあるけれども、それだけかな。まあ過去にループしまくっている世界で、過去の記憶を持った七影蝶だから、そこに考察の余地はかなりあると思うが、少なくともさらっと本編を一回やった程度だと、立場のわりに存在感が薄い設定だと思う。

・大人になったしろはがどうして未来を変えなかったのか

 しろはルートでは、散々「未来は変えることができる」と主張し、実際に死ぬはずだった未来を主人公と協力して乗り越えてきたしろはが、どうしてうみちゃんを産む際に自分が死ぬという未来を予測しておいて、その対策を取ろうとしなかったのか。
 これがわりと一番の謎で、まあ確かにその後の展開を考えると、過去は変えられないという方向性の話になるので、それでも合ってるんだけど、ただ個別と同じように主人公たちに未来の話を打ち明けて協力すれば何か事情が変わったかもしれないことを考えると、ここで素直に死を受け入れているのはかなり不自然。シンプルにご都合的な問題だと俺は思っているけど、果たしてどうなんだろうってとこ。

・瞳さんの挙動

 まあここは俺の解釈が足りてないだけだと思うんだけど一応……
 瞳さんはどうして幼いしろはに寄り添ってやらなかったのか? という問いに対し、彼女は自分の身を捧げることでうみちゃんに至るまでの一族の未来を救うことを目指していた、という回答が一応あるのだけど、ここがちょっと納得いかない。その二つって両立できないものなんですかね。そもそもここにも七影蝶の設定が薄い弊害があるんだけど、結局瞳さんが自身を蝶に変えることで出来るようになったことがあやふやで、瞳さんが謎パワーですべてを解決しようとしたのであれば、少なくともその謎パワーの描写をもっとちゃんとやってほしかったところ。やはりちょろっとやった程度では、本人が残ってしろはも後からくるうみちゃんも全部救ってやった方が手っ取り早いのでは? と思ってしまう。

 あと余談なんだけど、瞳さんがループ能力を使ったのかどうかもかなり重要だと思ってる。彼女らの設定では、そもそも未来視自体がループ能力の副産物で、単なるデジャブみたいなもんだと俺は解釈しているが、瞳さんが後世のことをある程度理解して行動しているのであれば、彼女も結局ループ能力を使ってあれこれしていたということになる。瞳さん自身もその力を使って紆余曲折し、色々試した結果にこういう結末があったのだとしたら、それだけでルートがもう一本出来てしまうので、正直考察というよりも妄想になってしまうのがちょっとあれ。

・鏡子さん

 この人もかなり謎。まあ謎ポジションだから謎のままでもいいと思うんだけど。
 たぶん、能力者ではないはずなので、自身はループしてないはず。なのに物語への関わり方が的確すぎるのはなぜなのか。出自が謎すぎるうみちゃんを普通に居候させてた理由なんかもわりと謎。瞳さんからどこまでの入れ知恵があったのか、あるいはうみちゃん自体から何かしらの申告があったのか。元々その手の伝承なんかを知っていたということもあって知識自体はあったのかもしれない。この辺も触れていこうとすればルートが一本増えるところだと思う。

 ていうかあれだね。サマポケ、というかKeyはやっぱり泣きゲーメーカーなので、この辺のめんどくさい設定を突き詰めたりしてたらそれはそれで違うゲームになってたように思う。あくまで泣きゲーに徹してファンタジー設定を曖昧にしようというのであれば、それ自体は全然問題ないよなあ、とこれを書いていて思う次第。

・エピローグで鴎と紬が出てくるとこ

 まあこれも、あえて触れるのは意地が悪いと思うんだけど、なんか死んでり消えたりしてるはずのヒロインが普通にいるんだよな。いやいいんだけどね。鴎と紬だけエピローグに出てこねえとかそっちの方がヤバいし。ただまあ、そういう点がありますよとだけ。

・チャーハンタイミング

 あとこれ。うみちゃんはチャーハン狂いなんだけど、実はうみちゃんがしろは味のチャーハンを知っているのにはそこまでの必然性がない。たぶん、うみちゃんがループを始める前の世界は普通のしろはルートが元になっていると思うんだけど、ここではチャーハン自体がそんなに出てこない。しろははうみちゃんの出生と同時に死んでるはずなので、うみちゃんは主人公にチャーハンを作ってもらうしかないのだけど、主人公はしろはルートだとチャーハンの作り方を教えてもらってない。主人公がチャーハンを習うのは、ALKAでうみちゃんに食べさせるためという理由を持ったときと、エピローグでしろはに声をかける口実を作るときの二つだけ。どっちもループ後の世界線なので、なんとも言えないところがある。まあCLANNADでも岡崎は勝手にチャーハンを覚えたし、こっちの主人公もシナリオ外でチャーハン作ってうみちゃんに食べさせてたり、あるいはうみちゃんがどっかからしろはのレシピを持ってきて気合で真似てたりすれば、うみちゃんがチャーハンに固執しているのは決しておかしいわけではないんだけど。

まとめ

 というわけで、やっぱループ周りの設定がちょっとガバいかなというのが正直な感想。ただどちらかというと、ここが矛盾してる! っていうよりは、もうちょっと説明を増やしてくれれば……って感じの部分が多い。ま、上でも書いた通り、それらを下手に煮詰めようとすると今度は泣きゲーとして薄くなってしまう恐れもあるので、やっぱりKeyのゲームは小難しい顔して重箱の隅をつつくのよりも雰囲気に流されるまま勢いに乗ってしまった方が楽しめると思う。そんな感じ。