くだらねえオタクの話をする

『宇宙よりも遠い場所』とその脚本家、花田十輝の話をする

TVアニメ「 宇宙よりも遠い場所 」エンディングテーマ「 ここから、ここから 」

 2018冬アニメの中でもかなりの安定感とクオリティでそれなりに人気のある『宇宙よりも遠い場所』、通称『よりもい』。この記事を書いた時点で7話まで視聴済みの俺が、前半戦の感想と本作のシリーズ構成・脚本家を担当している花田十輝(はなだじゅっき)のことをちょっとだけ絡めつつお話したいと思います。

宇宙よりも遠い場所・感想

 ストーリーを軽くまとめると、南極を目指す女の子が仲間を集めて(1~3話)実際に南極観測隊に乗り込むお話(4~7話)。

 よくある部活モノだとかアイドルモノなんかだとメンバー集めに半分近い尺を割いていたりするものが多く、かの花田先生がシリーズ構成を担当している『ラブライブ!』でもメンバーが集結する部分にシナリオの重きを置かれていたりしますが、よりもいではたった3話でメインの四人が集まりきっているのが印象的。これを駆け足と取るか無駄を排したテンポの良さと取るかが一つの分かれ目だけれども、本作では後者に感じたオタクが多いかな? 実際、よりもいはテンポを詰めることによって一話一話にきちんとした山場を作り、毎話で飽きさせない展開を上手く作れているんじゃないですかね。直近で似たような作りというと、例えば『宝石の国』。まああれはちょっと比べるのが勿体ないくらい面白かったんでどうかってところですけど、各話に一話完結として扱えるほどの満足度がある作品としても似たようなそれを感じますね。

 そういうわけで常に高い完成度を提供してきたよりもい。そこで肝心のストーリーの中身ですが、これに関して個人的な印象は、「70点後半は狙えるけど、80点以上、つまり名作の壁は超えられない」といったもの。後述しますが、花田十輝が関わる作品にはこれがすごい多い。なのでよりもいはまあ面白いし評価されるのもわかるけどそこまで熱中はしないだろうなあと思っていました。7話を見るまでは。

 キャラの個性やストーリーの運びなんかはすごく丁寧。抑えるところを抑えていて、毎週見ていてすごく安心するし損をすることはないだろうなという感触。でも正直、クオリティが高いことと作品を好きになれるかどうかはまた別の話。プラスアルファで他の作品にはない強みだとか、制作側の情熱だとか、オタクの好みにぶっ刺さる部分があると一気にその作品を好きになれるわけで、特に俺は作品自体の面白さとかよりも好みを重視するタイプのオタクなので、よりもいはその点で弱い弱いとずっと思っていた。報瀬ちゃんが周りを見返してやりてーとか、ざまーみろってワードがちょくちょく出てくるところなんかは、弱いオタクの心を刺激するものではあるけれど、その辺にあんまり踏み込もうとしないでほどほどのシナリオ展開をするのがいつもの花田十輝。

 それがなんか違うなってなったのが7話なわけですね。ずっと触れそうで触れられなかった報瀬ちゃんのお母さんの話。他の隊員の心境。キャッチーでウィットでセンセーショナルなスピーチ。丁寧に作り上げた土台の上にぶち上げるライブ感みたいなものを感じてしまった俺はとりあえずよりもいを80点代に押し上げておこうと思いました。

 正直、7話以前から面白いって言ってる人はたくさんいたので、単純に俺の好みに例のシーンが刺さっただけ感はありますが、まあいいでしょう。コミュ障のキャラが他の人間に認められて報われるシーンとかがやっぱり好きなんですね。

花田十輝というクリエイターについて

 よりもいという作品は非常に花田十輝的だな、と思うわけです。その話をするにはまず、花田十輝がどんなクリエイターなのかを知る必要があります。

概要

 1クールに一度は必ず目にするほどの売れっ子(?)脚本家。知らない人は脚本家界の畑亜貴とでも思ってくれればわかりやすいです。とにかくいろんなアニメの脚本やシリーズ構成を担当しており、安定したシナリオを提供することに長けているイメージ。

 そんな花田十輝ですが、オタクからの実際の評価はというと、それほど高くはない印象を受けます。しかし高評価のアニメに関わっている実績も確かなもの。とりあえず彼がここ最近でシリーズ構成から担当しているアニメを軽く並べてみましょう。

 

・STEINS;GATE

・中二病でも恋がしたい!

・ラブライブ!

・境界の彼方

・ノーゲーム・ノーライフ

・艦隊これくしょん

・響け!ユーフォニアム

 

 どうでしょうか。ビッグネームが名を連ねていますが、通ぶりたいオタクほど素直に評価したくないタイトルも多いのではないかと思います。中でも艦これなんかは賛否両論甚だしいものであるし、境界の彼方という評価に悩む不思議な作品や、ラブライブ一期のような典型的謎シリアスなんかも。その一方で、名作として名高いシュタゲや王道青春部活モノのユーフォニアム辺りは辛口オタクでも満足の出来と言われたりしていますね。そして脚本のみで関わっている作品も含めればその評価は更に難解なものになってきます。

小説

 花田十輝作品はなにもアニメに限ったものではありません。実は彼には数少ないながらも小説作品が存在します。どうにも脚本業の合間にちょろっとやっただけらしいのですが、複数人で製作するアニメよりも個人競技である小説媒体の方がクリエイターとしての方向性が見えやすいと思うので、その辺に触れていきましょう。

 そして花田十輝の小説で俺が読んだものがこちら

 

・くるりくる!~でする来襲~

 

くるりくる! ?でする来襲? (SD名作セレクション(テキスト版))

くるりくる! ?でする来襲? (SD名作セレクション(テキスト版))

 

 

・大嫌いな、あの空に

 

大嫌いな、あの空に。 (SD名作セレクション(テキスト版))

大嫌いな、あの空に。 (SD名作セレクション(テキスト版))

 

 

 

 まず、くるりくるについてです。これのストーリーはごくシンプルで、よくわからん宇宙人みたいな美少女が主人公の家に居候することになって、その宇宙人と人間の共存みたいな話になって、そんでラスボスを倒して終わり。起承転結に忠実なお手本のようなストーリーでしたが、面白いかと言われると微妙。ページ数が短いこともあって、冒険もせずただプロット通りに組みましたという感じのお話。特筆することといえば、主人公の家族が冒頭で溺れ死んで出だしがシリアスめだったことくらいですかね。

 どちらかというと(コンテンツ的に)面白いのは、『大嫌いな、あの空に』の方。これのストーリーをざっと説明すると、主人公の再開系幼馴染がやってきて環境を荒らし、三角関係的なそれを作った挙句に部活が崩壊しかけて実は最終的にファンタジー要素が出来てて泣けるエンディングで締め。といった形。幼馴染部分で言うと昔ながらの泣きゲー要素が強く思えますが、部活内での恋愛関係なんかはNTR要素も含んでおり、骨組みこそありきたりなものの肉付けの部分で彼があまり出すことのない個性が垣間見えているのが興味深い代物です。

 さらに、彼は今作のあとがきでこのように書いています。

この物語は、意地っ張りな人間たちの恋物語です。

僕の作品に常に登場する、自分勝手で、生き方が下手くそな連中の物語です。

(中略)

僕は、自分も含めたそんな人間が大好きで、そしてこれからも描いていきたいと思っています。

  こんな感じですね。中略部分が相当長いのですが、その中では主にキャラクターの「弱さ」について触れています。そんなところどころで弱い、人間味のある登場人物が好きだし描いていきたいとのこと。普段は原作付きの脚本を担当することの多い彼が珍しく明言した自作へのこだわりです。

 さて、そのあとがきも含めた花田十輝作品への印象ですが、まずストーリーを作るのが本当に安定しているなといったところ。起承転結や物語の山と谷の作り方がはっきりしており、これはセンスありきの創作ではなく、長年の下積みに根差したストーリー作りの成せる業かと。そしてオリジナリティの部分ですが、人間の「弱さ」といった、人間ドラマを構成するのに重要な部分へのこだわりは、彼の脚本において登場人物たちの心情の揺れ動きなんかがとても上手く表現されていることに繋がっているのではないでしょうか。で、悪いところは言わずもがな、ストーリーそのものに派手さがなくそこまで面白くないところ。

 花田十輝のアニメ作品ですが、原作付きだとすごく安定していて面白いんですよね。原作への理解、それをアニメの構成へ変換する技術、ストーリーを際立たせるためのキャラの動かし方や表現。それらが単純に上手いのだと思います。逆に原作なしのオリジナルアニメはストーリーがグダってるものが見受けられます。艦これとかその最たるものかな。ラブライブの終盤謎シリアスも盛り上がりのあるストーリーを作れなかったが故の失策の可能性があるし、境界の彼方はやりたいことをストーリーに落とし込めなくてなんとも言いにくい展開にしか出来ていない感がすごい。0から1を作るのが下手なんですかね。その代わりに1を10に仕立て上げるのは得意というか。まさしく原作付きアニメの脚本家にぴったりな才能だと思っていました。

『よりもい』における花田十輝

 まあ今更言うのもなんですけど、シリーズ構成ってのがどこまで話を決めているのか俺はわからないんですよね。監督と脚本家の区別があんまりついてないんですよ。だから花田十輝がストーリーにどこまで影響を及ぼしているのかは定かではないです。それを頭の隅に置きつつ、よりもいを花田十輝が作っているものとして捉えていくことを許してほしい。

 まず、よりもいにおいて花田十輝の特徴が色濃く出ている部分は二つあります。一つは「安定感」。もう一つは「報瀬というキャラクター」。

 安定感の話は既に触れた通りです。一話一話の完成度が高く、抑えるところをきっちり抑えている。ファンタジー設定のない現実の範囲での展開に、丁寧な描写と基本に忠実な構成で着実に盛り上げていく様はまさに花田十輝の得意技でしょう。ユーフォニアムなんかも似たような感じですね。ただ、本作は原作付きではなくオリジナルアニメ。丁寧にストーリーを運ぶだけでなく、大きな強みとなるオリジナリティをどこかで出していく必要があります。

 よりもいの強み。それは俺が思うに、報瀬ちゃんのパーソナリティです。主人公のキマリとか他にもキャラはいますが、その辺はこの際置いておくとしましょう。よりもいの面白さは報瀬の挙動にかかっています。花田十輝の「弱さ」に対するこだわり。それは報瀬にもよく見られます。不器用で意地っ張りで、クールに見えて実はただのあがり症だったり、反抗心こそ強いもののそれがないとポンコツだったり。

 花田十輝の他の作品でも、キャラクターの「弱さ」が現れているものは多いです。艦これでは主人公の吹雪が最初はクソ雑魚ですし、ラブライブの終盤では穂乃果のメンタルがぽっきり逝きます。ユーフォニアムでも、部活に対して全力になりきれなかったり途中で挫折してしまう「弱い」人間と、目標に向かって邁進する高坂麗奈などの「強い」人間の対比が描かれていたりしました。思うに、花田十輝は物語を動かしてその辺を表現するのではなく、心情描写やストーリーの中でのキャラの立ち回りを描くことでその辺を上手く表現するのが強みのクリエイターです。よりもいはどうでしょう。ストーリー自体は、あくまでも南極を目指すことに主軸が置かれています。今のところ、大きな挫折はありません。そんな中、7話では観測隊の内部事情に触れるシナリオの上で、間接的に報瀬のメンタルが揺さぶられていました。

 7話、実はそんなに話自体は進んでいないですよね。過去の回想が入って、隊員の事情なんかが暴露されたりしたぐらい。それだけで最後の報瀬の言葉に重みを乗せられるの、割と描写の積み重ねが上手くないとできないことだと思います。あらすじだけ見たら大して面白くないでしょう。それでもその緩やかな展開こそが、花田十輝の描くキャラクターを最大限魅力的に見せる効果的なプロットになっているように思えます。地味な話をやれと言ってるんじゃないですけどね。無理な謎シリアスをぶち込まなくても、ちゃんとした見せ場を作れるというのを証明できたのは素晴らしいことだと思います。

 蛇足ですが、俺はラブライブ一期のシナリオが嫌いではないです。ことりちゃんが留学するとかいう展開はクソ中のクソだと思ってましたが、その部分を省略してシンプルに穂乃果がスクールアイドルに復帰するシナリオを書くことができればそれで十分な展開になったのではないでしょうか。脚本上の山と谷を無理やり用意するためのことりちゃん事件を書いてしまったのは、花田十輝の弱い部分だったとよりもいを見て確信したわけです。

雑感

 ほとんど花田十輝の話でしたね。よりもいは7話でようやく記事を書く気になったので、これからより良い展開を期待しています。こっから怒涛の謎シリアスとかはマジでやめてほしい。逆によりもいが成功して、今後花田十輝が原作付きだけでなくオリジナルアニメをビシバシ任されるようになったらいいなと思うばかりです。