オタクは世界を救えない

『りゅうおうのおしごと!』とその作者、白鳥士郎の話をする

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)

 今期アニメ化する『りゅうおうのおしごと!』を一巻から既に追っていた俺がりゅうおうの話をあまりしないで作者である白鳥史郎の話をしようと思う。ぶっちゃけ彼の著作の中でりゅうおうが断トツにヒット作たるクオリティを有しているのは言うまでもないが、彼がそこに至るまでの経緯とりゅうおう以外の作品もメインに触れていきたい。(白鳥史郎の作品群として発売順に、『らじかるエレメンツ』、『蒼海ガールズ!』、『のうりん』、そして『りゅうおうのおしごと』が挙げられる)

りゅうおうのおしごと!とは

 JSがいっぱい出てくると見せかけてJS以外のところが話のメインになりがちな将棋ラノベ。ある日主人公のところに押しかけてきた天性の将棋センスを持つ幼女雛鶴あい(CV日高里菜)や、もう一人のあまり声が合っていないように思える幼女夜叉神 天衣(CV佐倉綾音)、それから久保ユリカ(GA文庫のお気に入り)、橋本ちなみ(初めて聞いた)、小倉唯(新ユニットゆいおぐら)などのJS勢に加え、JC2年生の空銀子(CV金本寿子)やババアのくせして三巻でメインを張る25歳(CV茅野愛衣)なんかが主要なヒロインであるが、正直言って幼女の力を借りなくとも主人公を始めとした男キャラ同士の対局や、25歳メイン回である三巻の方が面白かったりと、普通に内容が評価されるタイプのラノベだったりする。

 このラノで一位を取るぐらいには業界で評価される一方、将棋関連の書籍に送られる将棋ペンクラブ大賞でも優秀賞を獲得したりとそっち方面でも十分に認められている。また将棋面での監修として西遊棋(関西の棋士による団体)を迎え入れ、白鳥史郎本人の知識収集癖も相まって、ボードゲームとしての将棋だけでなく将棋の業界全体について詳しく触れている作品でもある。

 作家としての白鳥史郎の特徴としてまず挙げられるべきなのが、作品テーマに対しての綿密な調査とそれに裏付けられる知識量。特に顕著なのがのうりんからで、詳しくは後述するが、その辺を経て作られたりゅうおうは将棋モノの創作物の中でも相当詳しく書かれているんだそうな。俺は将棋にミリほどの興味もないのでわからないが、業界関係者が絶賛してるというのが嘘でなければきっとそうなのであろう。また白鳥史郎はのうりんの時から農業高校に凸っていたりと現地調査を行って生の声を取り入れることにも力を入れており、それこそ本やインターネットだけでは知りえない、その業界で生きている人間のリアルさが垣間見える表現が見えなくもない。

 で、それがアニメ化されるっていうのは必然だと思われる。まあ評価以前に、GA文庫の動きからしてアニメ前提の匂いはぷんぷんしてたし、一応はのうりんでアニメ化作家になった白鳥史郎を起用している以上、そこは疑う余地もないだろう。問題はアニメ化で成功するかどうかなのだが、その辺に関してもまあ、コケるってほどのことはないと思う。実際中身がそれなりに面白いのでよっぽどクソみたいな作り方しなけりゃ大丈夫か。

 気になるところとしていくつかあるのが、まず一巻と二巻が(個人的には)まだ助走をつけている段階かな、という程度の面白さな点。そしてもう一つが、尺の問題だ。最近のまともなラノベアニメは、だいたい1クールで三巻か四巻を消費する感じだが、このラノベの三巻と四巻は区切りとしてはあまりよろしくない。ストーリー的には五巻が主人公の見せ場になっていて丁度良いのだが、そこまでやるには他の多くを犠牲にしなくてはならないだろう。四巻は普通に締まりが悪い。三巻で終われれば尺的には完璧なのだが、生憎、三巻のメインキャラは25歳である。話的にはすごく面白いし作者も力を入れているエピソードであるが、さすがに最終回で25歳がジタバタする話を書いてもJSに釣られたオタクたちは喜ばないと思う。この辺にどう折り合いをつけるかが個人的には気になるところ。

白鳥史郎とは

 で、遅れたが本題。どこから語ればいいか迷うところだが、まずは彼のデビュー作に触れる必要があるだろう。

 彼のデビュー作は『らじかるエレメンツ』

 

らじかるエレメンツ (GA文庫)

らじかるエレメンツ (GA文庫)

 

 

 三巻で打ち切りになった不人気作であり、俺は駿河屋の通販を使って50円ぐらいで全巻を買った。当時は集計結果に数字が表示されないほど売れなかったらしく、打ち切りは当然だったとなにかのあとがきで本人が語っている。しかし、俺はいうほど悪いとも思わない。もちろん欠点はいっぱいあって、たとえば巻数を重ねられるほどのストーリーがないだとか、設定がぱっとしないだとか、ヒロインがまったく可愛くないだとか、まあ単純にラノベとしてのパワーが備わっていない点がいくつも挙げられる。その中で俺が評価したいのは、ギャグの勢いとそのぶっ飛んでる感。ちなみにストーリーは化学実験部に所属する主人公たちが廃部を阻止するためにスポーツチャンバラの世界大会に出場するというものなのだが、三年生の一学期をカビと共に過ごしていただけの主人公が、スポーツチャンバラを機に米国人の軍曹と殺し合いをしたり、教室を爆破したり、全国放送で幼馴染とのSMプレイを披露したりと、非常に話のテンポが速い。なによりも特筆するべきなのが、文章の細かい部分にユーモアが感じられ、日常編だけでもわりと楽しく読めるところ。ゴリ押しのパロディや濃いキャラに任せた勢いのギャグだけでなく、ちゃんと普通に面白い文章も書けるのかと、のうりんから白鳥史郎に入った俺は感動した。ちなみにらじエレはダブルヒロインが主人公を取り合う話なのだが、この二人がわざとキャラ萌えさせないように作られているのかと思うぐらい可愛くないというのを後に覚えておいてほしい。

 そして次回作が『蒼海ガールズ!』

 

蒼海ガールズ! 3 (GA文庫)

蒼海ガールズ! 3 (GA文庫)

 

 

 実をいうと俺も読んでいない。マジですまんこ。ただ話に聞くところだと、海上戦について相当詳しく調べ上げて書かれた作品らしく、この辺から白鳥史郎が己の武器に気づき始めた感が伺える。また、主人公が女の子まみれの海賊船に女装して紛れ込むというなんともラノベらしい設定から、彼が業界ウケを意識し始めたのもこの辺りからだと想像できる。ちなみに今作も三巻で完結しているが、これは打ち切りとかではなくあらかじめ予定されていたものらしい。

 で、問題のヒット作が『のうりん』

 

のうりん11 (GA文庫)

のうりん11 (GA文庫)

 

 

 前二作で己の進路を定めた白鳥史郎が送り出したのは、徹底した調査による専門知識ネタオタクウケしそうなヒロイン、そして中高生が好みそうなパロネタ下ネタのゴリ押しである。のうりんといえば、町興しの一環に使われた第一話がやりたい放題だったということで批判を含めて話題になったが、実をいうと内容はネタがふざけているというだけでお話は結構真面目。なんでもこの作品を作るために作者は農業高校に入り浸り、今でも文化祭には毎年参加するレベルなんだとか。そのおかげか農業ネタも定番からニッチなところまで様々。アニメ化された範囲では田舎の農家事情に詳しく触れたが、主人公が都会生まれの田舎育ちで農家に対して中立的なイメージを持っていることから、作中でも農家に対して擁護目線の描写から、厳しい観点からの指摘、中の人間にしかわからない実情を上手くストーリーに織り込んでいて、アニメ一話のイメージしかない人間からすると意外なくらいシリアスな内容が続いたりもする。

 しかしのうりんにもいくつか問題があった。一番大きなものとしてまず、農業ネタ自体があまり面白くないこと。地方の農家問題とか農業高校生の進路のこととかは面白いけど、正直なところ、品種改良の難しさとか農薬のもたらす影響なんかはわざわざエンタメとして読むには地味すぎる。特にその辺をストーリーに絡めていられる部分はまだマシだが、単に農業トリビアを披露するだけのパートが後々増えてきたりするとそもそもこのテーマを選んだ時点で失敗だったんじゃないかという気さえしてくる。それからヒロインだが、ダブルヒロインの片割れである元アイドルの林檎ちゃんはとても可愛いが、もう一人のデブがクソほどに可愛くない。なぜあえてヒロインをデブにしようと思ったのか理解に苦しむ。らじエレ時代からは50%ほど成長したがあと一歩が惜しい。それからパロネタや下ネタだが、この辺も人を選ぶし、俺でもつまらんと感じるところが多かった。下ネタは全然いいが、パロネタに関しては考えなしに突っ込んでもよろしくないという良い例だ。りゅうおうではパロネタがほとんどないのを見ると作者も飽きてきたんじゃないかって感じがする。

 そういうわけで、白鳥史郎の大きな飛躍のきっかけとなったのうりんと、その中に潜む問題点の話だったわけだが、これを更にステップアップさせたのがりゅうおうだと俺は思っている。のうりん最大の問題であった「テーマ自体がつまらない問題」は、将棋なら余裕で挽回できるだろう。やっぱり草や動物を育ててるよりは人と対戦してる方が盛り上がれるのは間違いない。そしてヒロインもちゃんとしたのを揃えてきている。ババア枠もアラフォーとかいうネタオンリーでなく25歳というまだ子供を産んでも許される年齢だ。個人的には、ヒロインが主人公を取り合う構図がらじエレ時代からまったく変わっておらず、こいつ恋愛描写は下手だなと思わざるを得ないのが玉に瑕だが、それ以外の多くの点において、白鳥史郎が人気作家として成長した痕跡が見受けられる。りゅうおうのおしごとはきちんとした計算と経験の上で生まれたヒット作だというのは、疑う余地もない。

雑感

 まあここまで書いておいてなんなんだけど、俺はりゅうおうよりのうりんの方が好きだね。結局りゅうおうはよく出来ているものの、中身はほとんど主人公勢が勝ち進むだけのサクセスストーリーなので、俺みたいなこじらせた臭いオタクが好む話ではないと思う。同じGA文庫に落第騎士の英雄譚とかいうアニメ化ラノベがあったけど、あれと同じで、熱くて燃える展開だけれども最終的に主人公の勝利は確定している、そういう類の話なのだ。だからさっさとのうりんの続きも書けよって思いながら俺はこの作品に触れている。

 この記事を書くにあたってらじエレ一巻を読み直したので、その中からこじらせオタクお気に入りの一文を抜粋したい。

「先輩……関西弁、抜けましたね」

『そう? まあ、東京の大学だからねー。半年も標準語喋ってれば、自然とそうなるんだろうね』

 その言葉を聞いた時、俺の中で何か一つ、区切りが付いたような気がした。 

  俺もオタクとして、そろそろ一区切り付けなくてはいけないのかもしれない。ただラノベのキャラは区切りを付けると成長したり何かに覚醒したりするけれど、現実はそうでもない。白鳥史郎はらじエレを打ち切りという区切りでぶった切って大きく成長したかもしれないが、たぶん俺は成長しないのでどうしようもない。とりあえずのうりんにはさっさと最終巻という名の区切りを付けるべきなのは、確かだと思う。

 

 ※アニメ化後のりゅうおう感想

yossioo.hatenablog.com