オタクは世界を救えない

BanG Dream! バンドリの小説版の話をする

BanG Dream! バンドリ

 ぶっちゃけ旬は過ぎた。というより旬がなかったアニメことバンドリについて、割と影の薄い小説版の話をしようと思う。今回は批判じゃなくて普通に布教記事。そもそもこの世の中にはバンドリの小説版の存在すら知らないという、センスのないオタクも多いと思うが、そいつらに小説版に登場するイカれたメンバーを紹介するためこの記事を書いた次第だ。

そもそもアニメの方は?

 あまり面白くないです。三話のきらきら星爆弾が広く語り継がれているが、それ以外はそこまでキチガイってわけでもないし、ストーリーもありきたりなもの。良作にもクソアニメにもなりきれなかった微妙作。俺は有咲のおっぱいと花園たえの台詞回しの雰囲気、そして三話ばりのクソみたいなきらきらムーブに期待して最後まで見たが、最後まで消化不良のまま終わってしまった。

小説版概要、他媒体との主な違い

 小説版はアニメ放映以前に発売。作者は「中村航」。この作者は基本的にアニメとは関係のない一般文芸の小説家であり、独特な語り口の恋愛小説とかそういう作品が多い。いくつかは読んでみたがあまり面白くはない。わざわざ他業界から人を引っ張ってくるだけあって、よくあるラノベとかに比べて文章がやはりしっかりしている。また、中村航はメインの曲の作詞も担当しており、デビュー曲だったりスタービートホシノコドウもこいつの作詞。

 ストーリーに関してだが、アニメと大きくは変わらない。アニメ版だと主人公の香澄がバンドを始めようと言って、メンバーを集めて文化祭でライブ。その後よくわからんライブハウスで謎ライブをやるためにかくかくしかじかといった内容だが、小説版はメンバーを集めてライブをやるとこまでのお話。よくわからんライブハウスは存在自体が消されている。

 で、小説版の何が一番違うのか。それはキャラ設定だ。ここがヤバイぐらい違う。キャラによっては名前以外のすべてが違う。そして小説版の方の割とロックな設定が俺的に大絶賛。その辺をもうキャラごとに説明していこうと思う。

・戸山香澄

 アニメ公式によると、『行動的で常にポジティブ。高校生になり、キラキラドキドキしていることを探している』だそうだ。アニメを見た人間ならわかると思うが、底抜けに明るく知能指数の低いコミュ力おばけである。

 それが小説版だとどうだろう。彼女のモノローグの一部を抜粋する。

 校門が近づくにつれ、足取りが重くなっていく。本当だったらワクワクする季節に、自分は音楽を聴くフリをしながら下を向いて歩いている。こんなにいい天気なのに、唇からこぼれるのは歌じゃなくて、ため息だ。

 この調子である。まずテンションが低い。そして友達がいない。小説版の香澄は小学生の頃、歌を歌って男子にからかわれたことが原因で極度のコミュ障になり、そもそも人と会話をすることが困難なレベルの社会不適合者になってしまったのだ。アニメ版と正反対の性格である。

 香澄は頭の上に浮かぶ星が大好きだが、冒頭の香澄は基本的に下しか向いていない。地面ばかり見ている者には星なんか見えるはずもないので、香澄は好きなものすべてから目を背けていてもはや何のために生きているのかすらわからない状況だ。そんな中、なぜか地面に張り付けられた星のシールを発見して、その後を追い、そして星形のギターに出会う。

 結局有咲のしかけた装置によって蔵に仕舞われたギターに出会い、バンドを始めるという結果は同じだが、その過程が大きく異なっているのだ。アニメではただ星形のギターがカッコいいという理由で始めたバンドだが、小説版の主人公は元から音楽が好きだが人前でその話をする機会がなく、星が好きだがそれを見ることも叶わず、死んだように生きていたところからそこへたどり着く。香澄がバンドに夢中になる理由に説得力がある。

 また、香澄はギターを手に持ち演奏を始めると性格がロックになるという特徴が追加されており、その辺も熱い。設定自体はありがちだが、表現がコミカルで面白い。

 ――自分がどう思うのかを、ちゃんとぶつけてみたらどう?

 ぶつける……。気持ちをぶつける……。

 (中略)

「ジェット・フランジャー!」

 香澄は雄たけびとともに、ピックを振りおろした。

 抜粋しても勢いが伝わらないと思うが、これは有咲とりみが音楽性の違いを理由に喧嘩している際、コミュ障の香澄が自分の気持ちを伝えるために取った手段である。彼女はとりあえずジェットフランジャー(というエフェクター)を踏み込みながらギターの音で黙らせるという手段を取り、そして

「二人とも! 最高が欲しいんでしょ!」

 これである。別に最高がどうなんて話はしていない。脈絡もなくエフェクター名を叫びながらカリスマ性を発揮するコミュ障。アニメ版の脈絡もなくきらきら星を熱唱するあいつも相当ロックだが、小説版の香澄はより一層ロックだと思う。そして作者が安定した文章力で脈絡のない掛け合いを展開する勢いも中々キてる。香澄の言動に限らず、このバンドリとかいう小説は勢いとテンポが本当に良い。

・市ヶ谷有咲

 アニメ公式によると、『盆栽いじりとネットサーフィンが趣味のインドア派。基本的に引きこもっているが、要領が良く学校の成績は優秀』。有咲は一番アニメとの差異が少ないキャラだが、大きな特徴を挙げるとすれば、高校には一度も登校していない。マジの引きこもりである。そして香澄たちと出会って学校に通うようになり、三日に一度は登校できるようになった。大成長である。つまり何が言いたいかっていうと、アニメの中途半端な「インドア派」よりも設定が振り切れているってことだ。有咲も香澄に負けず劣らずのコミュ障で、学校で喋るとフォントが変わる。そんなガチの引きこもりがガチのコミュ障と共にバンドを始めようとか言いだす。エモい。

・牛込りみ

アニメ公式によると、『臆病で引っ込み思案な自分を変えたいと思うが、上手く行動に移せない』だそうだ。それが小説版では、

「それで本題なのだが師匠、このままだとうちは破産。全財産はあと三十円」 

 貧乏である。

 師匠というのは香澄のことで、りみはニンジャなので気配を消す忍術を会得している香澄のことをえらく尊敬しそのように呼んでいる。また彼女はニンジャだからなのか常に裸足である。そんなりみは日本一のバンドに入るために高校進学と同時に上京してきてからは、炊飯器で炊いた白米を運動部に販売して生計を立てていたのだが、教師に炊飯器を没収されてしまい、稼ぎを得るのが困難になってしまう。炊飯器を取り戻すために提示された条件は「不登校の生徒を高校に連れてくること」。そういった経緯で蔵に籠ってバンド練習をしている有咲にコンタクトを取りに来ることから、りみがバンドメンバーに加わるエピソードが始まる。ちなみに上記の台詞にある「三十円」は次の日に「二十円」に減ってしまう。故郷の母を安心させるため、公衆電話で一日一回の連絡の取っているからだ。イイやつである。

 そういうわけで一番原型のないキャラこと牛込りみである。ベース経験者というのとイメージカラーがピンクなのはかろうじて同じだが、性格はだいぶ異なる。彼女は日本一のバンドにメンバーとして加えてもらうために上京してきたわけだが、最終的には香澄たちのバンドに加入する道を選ぶ。彼女たちとなら日本一になれると確信したからだ。イイやつだし熱血である。俺は小説版なら香澄の次にこいつが好き。小説版バンドリ特有のテンポの良さを体現したキャラ。

 ・花園たえ

 アニメ公式では、『マイペースでかなりの天然、時折、予想外の行動で周囲を驚かせる』だろうだ。それが小説版だと、

「自分、フルーツカットが特技で。実は左利きで、こっちの手は器用なんっす。ただ、右手と心は不器用っす」 

 不器用キャラになってしまっている。アニメでも確かに天然の雰囲気を纏い、キチガイの香澄に唯一対抗できるプレイヤーだったが、小説版ではコミュ障という側面で香澄に対抗している。たえがバンドメンバーに加わるエピソードではまず三人でたえの身柄を拘束する話に終始するほど逃げ足が速く人と関わることを避けているような人間だ。

 そんなたえだが、性格以上に作中での立ち位置が変わっている。アニメではぶっちゃけただギターが上手い人ぐらいの存在だったのが、小説版では「BanG_Dream!」という彼女らの初オリジナル曲の譜面を引っ提げて登場する。ここで注釈だが、彼女らには過去にオリジナルとも呼ぶべき伝説のバンドが存在し、「Poppin'Party」のメンバーは全員がその影響をなにかしら受けていたという裏(?)設定を持っている。たえはかつて伝説のバンドメンバーの演奏を生で聴き、「BanG_Dream!」の譜面を託されている。そしてそのバンドメンバーに憧れてギターを始めるという設定だ。ちゃんと年頃の女の子が楽器やってる理由も用意してあるのだ。

 ちなみに他のキャラとその辺の繋がりについてだが、香澄の相棒であるランダムスターは伝説のバンドで使われていた楽器。有咲の父はそのバンドのメンバー。りみはメンバーが引退後に経営していたライブハウスに入り浸っていた。沙綾は父親が伝説のバンドに昔憧れていたが夢破れてパン屋をやっている。……なんてのがある。そして全員がなにがしかの場面で「BanG_Dream!」を聴いている。ちなみの歌の中にはこんな歌詞がある。

In the name of BanG_Dream! 

 バンドリの名の下に集まってきたのが彼女たちである。作詞者が書いてる小説版を読むと、バンドリの歌もよりそれっぽく聴けるようになりますよ。

・山吹沙綾

アニメでは、『高校に通いながら実家のパン屋「やまぶきベーカリー」を手伝っている、親孝行な女の子』だ。母が病気で倒れて以来、父と共にパン屋を手伝っているのでバンドに参加することを渋っていた。それが小説版では、

母を二年前に亡くしてから、弟たちの世話をするのは、沙綾の役目になった。

 母は死んだ。随分と貧弱である。そして父はそのショックで鬱になり、まともに働ける状態ではなく、おまけに小さい弟が三人。沙綾は家の手伝いに追われ、中学を卒業後は夜間の定時制高校に通っている。性格の改変などはないものの、家庭事情がよりハードだ。

 沙綾は定時制の教室で香澄と同じ机を使っており、そこにお互いが交互に短いメッセージを書く文通もどきをやっている。ジブリの恋愛モノみたいだ。香澄は顔を合わせたこともない沙綾に何度も勇気づけられ、その存在は作中序盤から重要なものであった。「入学初日に仲良くなった」で済ませられているアニメ版に比べて、文学性の高い立ち回りを披露している。この際言うが、アニメがただ垂れ流しているストーリーと設定にちゃんと理由付けをしているのがこっちの小説版だ。丁寧に作るってのはこういうことなんだぞちゃんと聞いとけよ。

 で、パン屋の娘は当然ながらバンドへ誘われてもそれを断る。音楽なんてやってたら弟たちを食わせてやれないから当たり前だろう。しかしドラムを熱烈に募集している香澄たちはこの強者を逃したくはない。ここでストーリー中重要になってくるのは、沙綾とコネクションを持っているのが香澄だけという点だ。今まではなし崩し的にメンバーを増やしてきたわけだが、沙綾を誘い入れるのは香澄が気合を入れなくてはならない。コミュ障で友達一人作ることもままならなかった香澄がだ。

 ライブそのものではなく、沙綾の加入を物語の山場に持ってくるこの小説版では、結局コミュ障の香澄が人間と正面からコミュニケーションを取れるかどうかにかかっている。ライブシーンで強い曲を垂れ流せばどうにかなる媒体とはわけが違う。コミュ障と引きこもりとニンジャとコミュ障その2と定時制が入り乱れて夢を打ち抜く物語。アイドルじゃねえんだからこっちの方がやっぱりロックだろうって俺は思うね。

 雑感

 キャラ紹介に合わせて内容も紹介してしまったために、もうあまり語ることは残されていないのだが、一つだけ補足しよう。この小説、地味に音楽の描写をちゃんとやっている。別にライブシーンの表現描写とかではない。たとえばギターを最初にやるとき、どのコードから練習するだとか、初めてアンプを通してギターを演奏する感動だとか、世界で一番有名なバンドの一番激しい曲の話だとか。つい昨日までギターに触れたこともない女の子がだんだんと上達していく様子をその辺交えながらちゃんと描写してるからこそ、応援したくなる。ガルパなんて置いといていいからこっちをアニメ化するべきだと主張したい。

BanG Dream! バンドリ

BanG Dream! バンドリ